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| 青山 周の「中国環境論」 第2号 | ||||
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これからの改革・開放は「環境調和型」 ―変貌する改革・開放政策と「環境調和型経済」への移行― |
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| 1. 中国は新興市場か | ||||||||
| 国際経営学者のアーノルドとクェルチによれば、「新興市場」の定義はまだ確立されていないが、①経済発展の絶対水準として低所得国であること、②高い経済成長率、③市場ガバナンスシステムが構築中であること、という三つの側面を有している。新興市場は成長性を持っている一方で、政治的および経済的不安定性という過去の遺産と経済改革プログラムの急な実施から生じている圧力がある「高リスクの環境」を有している。そのため、多国籍企業の新興市場への参入には、①新興市場における追加的源泉の検討、②市場評価における需要駆動型モデルの採用、③新興市場の顧客ニーズを満たす製品政策の新しいフレームワーク、④適切なパートナー戦略、という既存市場とは異なるマーケティング戦略を採用する必要がある。*1 2001年末に中国がWTOに加盟して以来、中国政府は金融・流通などの分野において順次対外開放を進めた。その後、二桁の経済成長を続けたこともあって中国は単なる製造拠点としてだけでなく、グローバルに事業を展開する企業が戦略的に市場開発に取り組む「市場」へと変貌を遂げた。外資にとって中国は「世界の工場」から「世界の市場」へとその位置づけが急速に変化している。 図1のように、中国の一人当たりGDPは右肩上がりの成長を続けており、新興市場におけるマーケティング戦略の「②需要駆動型モデルの採用」は重要な意義をもつ。「③製品政策の新しいフレームワーク」と「④適切なパートナー戦略」は個別性をもった戦略であるが、「①新興市場における追加的源泉」は、外資に対する政府の各種優遇策を指す。今、この中国の外資政策が大きく変わろうとしている。 中国は成長性において確かに新興市場としての特質を有しているが、経済の発展レベルから見るとかなり早いタイミングで急速に新興市場としての特徴を「卒業」しようとしていることは注目に値する。
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| 2.選別の時代が始まる | ||||||||
| 東北地方や西部などは、依然として外資向けの優遇税率や低廉な労働力を宣伝する。実際、筆者が昨年10月に訪問した吉林省の長春市の外資向けパンフレットに掲載された優遇措置は10年前に沿海地域の各都市が打ち出していたものと大差がない。*2 他方、中国の先端地域はすでに大きく変貌している。昨年の秋、広州、蘇州といった都市が立て続けに東京などで企業向けの会議を開催した。一昔前に行われたような新規投資を呼びかけるタイプの単なる投資セミナーではない。トヨタ、日産、ホンダが進出してアジアのデトロイトと称される広州のシンポジウムにも、また一つの工業団地だけで300社以上の日本企業が進出する蘇州の「感謝の会」にも、すでに立地している企業幹部がこぞって詰め掛け、その数は500名をはるかに超えた。今年1月に開催された「無錫旅情」発表20週年を祝う会には1000名以上の関係者が駆けつけた。すでに進出している優良企業を核にしてさらに発展を目差すのが先端開放都市の外資利用戦略である。 後述するように、昨年11月公表された外資利用第11次5ヵ年計画において、外資企業と国内企業で異なっていた企業所得税を統一して運用する企業所得税法を改正する姿勢を明示した。外資企業であれば何でも歓迎という時代は確実に過ぎ去ろうとしている。 企業において世界の市場に成長した中国でのシェア争いが熾烈さを増している一方で、中国の都市の側でも熾烈な競争が始まっている。言い換えるならば、企業と都市の間においてお互いに厳しい選別が始まったのである。 |
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| 3.通商・外資利用政策の転換 | ||||||||
中国の貿易黒字が急増している。図2は中国の輸出入と貿易黒字を示している。中国の貿易黒字は2004年まで200億ドルから300億ドル前後で推移してきたが、2005年に一気に1000億ドルを超え、2006年には1700億ドルに達した。本年は2000億ドルを突破すると見込まれている。外貨準備高も昨年1兆ドルを超えた。
かつて中国は長期にわたり生産力不足と外貨不足に悩んできたため、通商政策や外資政策において輸出奨励策を一貫して採用してきた。これが今、大きな転機を迎えている。 中国は2006年3月に第11次5ヵ年計画を発表した。新しい5カ年計画の遂行にあたり、各分野の政策や計画を矢継ぎ早に公表している。 昨年10月には商務発展第11次5ヵ年計画綱要を制定した。綱要は、「大開放、大市場、大流通」の総合目標を掲げ、国内市場と対外開放の統一的遂行を目指す。具体的に六つの目標として、①統一され開放された大市場の形成、②国内流通業の発展の加速化、③貿易の成長方式の転換、④サービス貿易の発展の加速化、⑤外資投資の効率向上、⑥「走出去」戦略の発展、の実現を明示した。対外開放のレベルを向上させ、開放を堅持しつつ、自律的な成長力を身につけることが中国の目標であることを示した。*31978年末に始まった改革・開放政策は、外資の導入により、中国の生産力を強化し、国内の需要を満たすとともに輸出によって高い成長を支えることを目指したが、これからは中国国内に「自前の動力」を持つことによって外資に頼らない成長の実現を目指す。 商務政策に続いて11月には、外資利用第11次5ヵ年計画が国家発展改革委員会から公表された。同計画では、外資利用の「量」から「質」への根本的転換の推進がうたわれた。外資利用の重点は、資金と外貨不足の補填から、先進技術、管理ノウハウなどの導入へ移行させ、環境保護、資源・エネルギーの節約と総合利用の重視し、外資利用を国内の産業構造と技術水準の向上に結びつける方針を明確に打ち出した。具体的な外資政策として、外国企業投資プロジェクトにおけるエネルギーと水の消費、土地の占有などに関する参入基準を設け、エネルギーや水資源を浪費する老朽化施設を強制的に淘汰する制度を導入し、環境ラベルや環境認証制度を実施する。*4 中国は90年代に建国以来はじめて供給が需要を上回る状況に到達したが、その後も世界の工場といわれるまで供給は増大した。生産における質的な改善、すなわち産業競争力の強化が21世紀の中国に課せられた課題である。需要を超える供給を実現することが長年の中国指導者の課題であり、改革・開放政策がまさにこうした目的から発動されたことを考えるならば、改革・開放政策は量を重視する第1フェーズを終え、質を重視する第2フェーズへ移行した。 鄧小平が1992年の南巡講話で肝っ玉を太くして大胆に外資を導入すべしと提唱して推し進めた開放政策は本計画をもって終焉する。生産力を盲目的に拡大させて環境汚染や資源の浪費を引き起こす、環境にやさしくない改革・開放政策は終わり、環境にやさしい改革・開放へと、改革・開放も新たな時代に突入する。今後の改革・開放政策は量ではなく質を重視するが、こうした転換にあって、環境にやさしい企業は奨励されるが、反対に環境にやさしくない企業については内外を問わず中国から排斥されていくのである。 環境、省エネ、省資源への投資は生産力といった「量」の拡大を生まないが、競争力向上といった質を改善することになる。環境、省エネ、省資源を重視する政策への転換により中国の産業は質的な転換をとげることとなる。 |
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| 4.「世界のゴミ箱」にNO! | ||||||||
| 国家環境保護総局の潘岳副局長は2004年8月17日の記者会見で「中国は世界のゴミ箱にならない」と発言し議論を巻き起こした。 *5ちょうどそのころからさまざまな政策ツールを用いて環境調和型への転換が中国において始動した。 政策は税制に端的に反映されている。2004年から中国は、「高汚染、高エネルギー消費、資源浪費型」という「両高一資」の製品に対する消費税を引き上げるとともに、輸出関税の引き上げや輸出時における増値税還付率の引き下げ、加工貿易の禁止分野の拡大を実施している。*6 かつての中国であれば、外国の進んだ技術で生産して製品を輸出すれば優等生扱いされた。しかし今や時代は変わった。アメリカや日本のナイキショップで売られるシューズが100ドルとすると、生産国にもたらされるのは加工賃の1―2ドルで、大半の付加価値はブランドを持つナイキが握る。こうした議論が中国のエコノミストの間で盛んに議論されている。第11次5ヵ年計画でははじめてブランドという言葉が登場した。「ゴミ箱」論は、中国は外資企業の単なる生産下請の地位に甘んじてはいられないという意思表示である。 それとともに、生産過程で資源やエネルギーを大量に投入し、その代価が1%の分け前だけという状況はなんとしても脱しないと、中国の経済成長は持続可能ではない。このまま世界の下請工場として高度成長を続けていくならば、中国の資源は早晩枯渇し、資源やエネルギーを消費することによってもたらされる環境汚染で、経済成長の成果を帳消しにするどころか、今後長期にわたり多大な負債となりうる。国家保護総局と国家統計局とで検討され,昨年9月公表されたグリーンGDPはまさにこうした論調を現している。*7 |
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| 5.「環境調和型」政策への転換 | ||||||||
| 税制というアメとムチのルールは政策の下流として位置づけられる具体的な措置である。税制で具体的な措置が盛り込まれたということは、上流に位置する政策に根本的な変化が生じている証左である。 2005年11月9日の国務院第112回常務会議の審議を経て「産業構造調整促進暫定規定の公布施行に関する国務院の決定」が翌月の12月2日に公表された。「決定」には、関係各部門は税財政、金融、土地、輸出入などの関連政策の制定・改正を加速化させ、産業政策と協調をとって産業構造調整を促進させる政策体系を構築すべきことがうたわれた。第2章の「産業構造調整の方向と重点」(第9条)において「循環型経済の強力な発展、資源節約・環境友好型社会の建設」が盛り込まれた。「決定」の第3章には産業構造調整指導目録が規定されているが、この目録は、税財政、信用供与、土地、輸出入などの政策を制定・施行する上で重要な根拠とされると「決定」に明記された。すなわち、この「決定」は法律ではないものの、法律づくりの基礎となる指針であり、法律の法律なのである。目録は、「奨励類」、「制限類」、「淘汰類」に分けられるが、どの類の原則にも資源・エネルギーの節約と環境保全が盛り込まれている。これにより、中国のあらゆる産業政策において、環境保全と資源・エネルギーの節約は絶対に満たさなければならない必須の条件に位置づけられた。*8 前号で紹介したGDPエネルギー消費指標公表制度が2006年からスタートした。同年6月末には省、直轄市、自治区ごとの単位GDP当たりのエネルギー消費・電力消費、単位工業生産額当たりのエネルギー消費が初めて公表されている。*97月末には、2006年上半期の単位GDP当たりのエネルギー消費に関して業種別のデータを公表するとともに、中国全体の単位GDP当たりのエネルギー消費が前年同期比で0.8%増加していることが明らかとなった。*10 具体的なデータで省エネ政策の進捗状況を把握し、進捗状況に応じた施策を実施できる体制がスタートする中、国務院は第11次5ヵ年計画で定めた省エネ目標達成に向けて具体的な強化策を盛り込んだ政策を審議し、8月に公表した。*11 公表に先立つ7月26日には、国務院常務会議の原則決定を受けて、国家発展改革委員会の馬凯主任が全国省エネルギー会議で講演を行った。*12 講演では、省エネ政策の具体的な展開が紹介されている。前日の国務院第145回常務会議において、第11次5ヵ年計画における各省・自治区・直轄市の単位GDPエネルギー消費の削減指標が了承されたが、各省・自治区・直轄市は2006年の第3四半期においてそれぞれの削減目標をさらに下の行政単位と重点企業に振り分ける。エネルギー消費指標公表制度については、地方ごとのデータは半年ごと、重点企業のエネルギー効率と製品ごとのデータは四半期ごとに公表する。 産業構造の調整を強力に推進する。具体的には第1に任務と政策措置を明確にして中長期省エネ計画をもとに各地方、産業ごとの省エネ計画を制定する。第2に第三次産業とハイテクを強力に発展させる。第3にエネルギー多消費プロジェクトなどの抑制でエネルギー消費の増加を元から断つ。第4に、遅れた生産能力、技術、設備の淘汰を加速化する。 省エネ責任制を採用し、各級の主管部門が重点企業のエネルギー管理の実行 を促す。国家発展改革委員会は1000社のエネルギー大量消費企業の省エネ目標を各地方と各社に割り当て、全国省エネルギー会議において各省と一部の中央企業を省エネ目標責任書に調印した。国家統計局は毎年、前年の1000社のエネルギー利用状況、省エネ目標の達成状況などを公表し、社会の監督を受ける。 エネルギー価格については次第に石油製品の価格を調整する。「省エネ製品目録」を制定し、省エネ製品に対して税制上の優遇策を実行する。また、省エネルギー法の改正に着手する。 省・自治区・直轄市政府はその地域の省エネ対策に責任を負う。省エネ対策は政府の重要なアジェンダであり、主要指導者は自ら取り組むとともに、ふさわしい協調メカニズムを構築し、担当部門の責任と役割分担を明確にして実効をあげなければならない。 国務院常務会議の決定を経て、2006年8月、「中華人民共和国国民経済社会発展第11次5ヵ年計画綱要の主要目標と任務分担に関する国務院通知」が公表され、単位GDP当たりのエネルギー消費と主要汚染物排出量は関係省庁ごとの役割分担が決められたほか、改めて省、自治区、直轄市の責任が明示された。*13 単位GDP当たりのエネルギー消費とともに、第11次5ヵ年計画で拘束性ある目標とされた主要汚染物排出総量についても、2006年5月には、国家環境保護総局が国務院の委託を受けて省・自治区・直轄市および6大電力会社とSOx削減目標責任書に署名、同年7月には水汚染物排出総量削減目標責任書に署名した。*14SOxについては、2005年の排出量の実績に基づいて2010年の排出量が各地に「分配」された。排出量の割り当ては削減義務を各地に課す一方で、排出権取引のベースとなるものである。この分野においては、市場の機能を活用しつつ全体の排出量を削減していくこととなる。*15 データの信頼性を確保する努力も行われている。今年に入ってから環境保護総局から各地方自治体が勝手にデータを公表することを禁止する一方で、各地の削減状況の監察のため1月7日から20日にかけて検査組が各地へ派遣された。*16 2006年11月、国家発展改革委員会と科学技術部は「2006年版中国省エネルギー技術政策大綱案」を公表し、パブリックコメントを募集した。大綱では、省エネ技術の進展を促すため、工業、建設、交通、民生、農業といった分野の省エネと再生可能エネルギーに関して、「研究開発」、「発展普及」、「制限、淘汰、禁止」といった措置を採用して省エネ・新エネ技術の規範化を目指す。中国が政策としてどういった分野の省エネを進め、どのような新エネの導入を促進するかが一目瞭然となっている。*17 省エネ、環境汚染物質に関しては、目標責任制の下、着実な検査体制をとる統計制度による管理を行うとともに、推奨する技術、製品が定められ、これにより政策遂行のメニューが出揃った。 |
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| 6.マトリクス経営を実践する中国 | ||||||||
| 中国の省エネ、省資源、環境汚染物質の管理は、国家発展改革委員会や国家環境保護総局など政策分野のタテのラインと地方ごとのヨコのまとまりとの二元管理となっている。 中国政府の中央―地方の省庁ごとのタテのラインは「条」と表現される。例えば、中央政府の国家環境保護総局は各地方の環境保護局を統括し、地方に対して様々な通知・通達を伝達し、中央の政策を統一的に実行する。これに対して地方ごとのまとまりは「塊」と表現される。国土が広大で、膨大な人口を擁する中国において各省・自治区・直轄市は方言や地方文化を共有し、排他的なまとまりを形成しやすい。東南アジアで出身地ごとに会館があって、相互扶助を行っていることを考えると理解しやすい。上海であれば上海語の言葉を話す人がインサイダーとなる。 こうした中国の状況をグローバルに事業展開する企業にあてはめるならば、政策ラインは製品ごとのサプライチェーンマネジメント(SCM)、地方のまとまりは各国・地域ごとの地域統合本部や事業所にあたる。こうしたマトリクス経営は二元管理となって意思決定にコストがかかるという難点がある。 失われた10年の中にあって超優良企業へと変貌を遂げたキヤノンでは、1990年代半ばから、経営の刷新に取り組んだ。生産現場にセル方式を採用して生産効率を向上させる一方で、全役員を頂点とする全社的クロスファンクショナルチーム「経営革新委員会」を組織し、縦部門のトップが横断的委員会のトップを兼任することでマトリクス経営の弊害を取り除いた。その結果、8400億円にのぼる有利子負債をほぼゼロに削減するとともに1990年代前半に400億円前後であった利益をいまや5000億円の規模にまで増加させた。*18 中国政府は省エネ、環境政策の遂行にマトリクス経営を採り入れ、主管部門の任務分担を国務院通知によって明確にして、マトリクス経営の弊害を予め取り除こうとしている。中国がキヤノンのような成功を収めるかが注目される。 |
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| 7.日本企業にとっての中国の政策変更 | ||||||||
| 企業の生産、貿易、流通において環境、省エネ、省資源への対応が必須となっている。新規投資での認可だけでなく、事業の継続性にとって環境対応は必要不可欠となっている。逆に中国企業やほかの外資企業よりぬきんでた環境対策を率先して採用し、それを積極的に周知・広報していくことが今後中国では重要な企業戦略となる。 こうした点から考えるならば、明暗を分けた日本企業の大型投資プロジェクトの認可は示唆するところが大きい。王子製紙の製紙工場の投資が認可される一方で、JFEの高炉建設が認められなかったのは、それぞれの産業の需給動向に基づく産業政策によるものであるが、環境・省エネ・省資源という政策の視点があったことも見逃せない。日本側からすれば当該産業における日本企業と中国企業の環境パフォーマンスの違いは歴然としていると言いたいところであろうが、環境保全に関してゼロエミッションの生産施設はありえないし、大きな工場となると資源やエネルギーの投入量も莫大なものとなる。 環境政策から見れば、外国資本である王子製紙の大型プロジェクトの認可はエネルギー・資源多消費型かつ廃大気・廃水を大量に排出する外資の大型投資として例外中の例外で、まさに「滑り込みのセーフ」であったと言って過言でない。投資認可において、環境アセスをはじめ、環境保全、省エネ、省資源は必須の要件であり、生産から流通、そして製品における環境配慮までデータをきちんと開示して政府の認可を得る必要があるだけでなく、消費者など広くステークホルダーに対して周到な環境対応を行っているイメージを持ってもらわなければならない。 |
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| 8.本格化する環境・省エネ対策 | ||||||||
| 前述のように、省エネの推進と汚染排出総量の抑制については、新しい制度が導入されており、単位GDP当たりエネルギー消費が減少するなど一定の成果を収めつつあるが、5ヵ年計画の目標達成はなお楽観視できない状況にあると中国政府は認識している。 汚染排出総量については、第11次5ヵ年計画において5年間で10%減少、毎年2%ずつ削減する目標をたてている。2006年の経済成長率が10.7%と過熱する中、2006年のCOD(化学的酸素要求量)は前年比1.9%増、SOx(二酸化硫黄)は同2.4%増と、半年前の数字からは下がったものの、増勢になかなか歯止めがかからない。*19 こうしたきびしい状況に対処するために、中国政府は旗振り役として活動を活発化させている。 昨年10月16日から31日にかけて瀋陽など五つの都市で省エネ1000社大会が開催された。会議にはエネルギー大量消費企業961社から2000人近くが参加し、省エネ目標の達成に向け、省エネ対策、省エネ管理や省エネ計画の実行状況の監査などについて専門家の説明を聞くなど、「合宿」スタイルの研修が行われている。*20 昨年10月下旬から11月初めには、日本の省エネ法に実施状況、エネルギー特別会計などを調査するために、経済産業省の招きにより国家発展改革委員会が調査団を組織し、中国の国会である人民代表大会、国務院、財政部などの法律や行政の専門家や担当官が来日している。*21調査団の来日は日本の経験を中国の政策に役立てることを目的にしているのはもちろんのこと、後述する日中間の協力増進の一環でもある。 中国政府の積極姿勢を反映して、省エネや省資源、環境保全に関連したシンポジウムや展示会などが各地で活発に開催されるようになった。政府の威光を借りてシンポジウムを開催する「事件」まで発生した。11月28日―30日に人民大会堂で開催される予定の「2006年(北京)中国企業省エネルギー・エネルギー効率ハイレベルフォーラム」に対して「国家発展改革委員会の資源節約環境保護司の事前承諾なしに主催機関としており、訂正を申し入れている。国家発展改革委員会は法律上の責任を追及する権利を留保している」という趣旨の文書が国家発展改革委員会のホームページに掲載された。*22こうした「事件」は省エネ・環境関係のイベントへの関心が中国において非常に高まっていることを示している。 環境を全面に押し出して産業集積を狙う都市も出現している。江蘇省の宜興市は、1994年に取りまとめられた中国アジェンダ21の優先プロジェクトとして中央政府の後押しのもとに環境保護産業中心の工業団地づくりに尽力してきた。環境保護産業は図4のような高い成長が見込まれる。第11次5ヵ年計画で明確にされた環境調和型へ政策変更は、環境保護産業の「メッカ」を目指す宜興市にとってまさに追い風である。
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| 9.日本の動き | ||||||||
| 中国の環境・省エネ問題に対して日本がどのような協力をしていくかはずっと日本において政治、官庁、経済界、マスメディア、NGOなどで強い関心をもって議論し検討されてきた。しかしながら、首脳交流が長期にわたり中断されたため、その間、両国政府間の実務上の懸案は先送りされ、将来にわたる両国関係のビジョンがまったく描けない状況が続いた。昨年9月の安倍政権の誕生と翌月の安倍訪中により日中政府間の実務が本格的に動き出した。 両国首脳による協議は、その後、11月にベトナムのハノイで開催されたAPEC首脳会議、今年に入ってフィリピンのセブで開催された東アジアサミットと続き、4月には温家宝総理の訪中が予定されている。一連の首脳会議において、省エネ、環境分野での日中間の協力が必ず取り上げられた。エネルギー分野の協力については、担当閣僚同士の対話を行うことが合意された。 両国政府間の関係正常化に先立つ2006年5月末から6月はじめに、東京において、経済産業省、日中経済協会、国家発展改革委員会、商務部、中国駐日大使館の共催により、第1回日中省エネルギー・環境総合フォーラムが開催された。フォーラムには中国から約300名、日本側から約550名が参加した。*23 12月には、フォーラムの開催を通じて形成された環境・省エネ分野における政策対話がもたらす効果、重層的な民間交流を通じた相互理解増進の重要性、今後の対中環境・省エネビジネスを拡大させる推進力の形成が不可欠であるとの観点から、「日中省エネルギー・環境ビジネス推進協議会」が発足した。 2007年9月には第2回日中省エネルギー・環境総合フォーラムが北京で開催される予定である。 |
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| 10.環境調和型EPAの薦め | ||||||||
| 中国が環境調和型経済を目指し、改革・開放も環境調和型の第2フェーズへと移行しようとしている一方で、日中あるいは日韓中、さらには東アジアの地域レベルでのEPAが議論されている。 日本政府は貿易以外の分野を広範にカバーする経済連携協定(EPA)を推進しているが、WTOで位置づけられている自由貿易協定(FTA)と異なり日本政府のEPAは残念ながら世界に通用する協定概念ではない。日本政府はモノの貿易に関する交渉をできるだけ後回しにして、相対化したい姿勢がEPAの背後にあるが、そうした日本独自の協定概念を打ち出すのであれば、日本の得意とする環境や省エネをEPAに含めることを日本政府には提言したい。 日本企業のグローバル化に伴い、日本企業の活動領域は国境を超えて東アジアや世界に拡大している。その一方で、国境を越えてリサイクルなど資源の有効活用を進めることを提唱した3Rイニシアティブなど、環境や省エネ分野における日本の存在感はますます高まってきている。 日中韓首脳会議の共同プレス声明を見ても、EPAなど経済・貿易分野と環境とは別の項目に整理されているが、企業の活動から考えると、環境と経済・貿易とは切り離すことのできない問題である。*24中国での政策変更を例にとるまでもなく、部材調達における有害物質管理など環境問題は時として企業の死活問題となりうる。環境分野の問題はグローバルな事業展開にとって対応が不可欠の問題となっている。 FTA・EPA、あるいは投資協定に関しては、日中両国政府の間にスタンスに隔たりがある。2002年の日韓中首脳会議を受けて、総合研究開発機構(NIRA)が中国の国務院発展研究センターと韓国の対外経済政策研究院と共同研究を行っているが、1月26日の日本経済新聞の経済教室でこれまでの共同研究の経緯や成果、さらにFTAに対する3カ国の専門家の考えが紹介されている。執筆者である阿部、片岡の両氏が関係各国政府の立場に配慮して論文はいささかパンチを欠いたものとなっているものの、「貿易協定の締結か、投資協定の締結かという二者択一的な各国政府の思惑の相違もFTA実現の妨げになっている」と記している。*25中国は必ずしも二者択一のスタンスをとり続けておらず、投資協定の交渉を受け入れるという柔軟性を示しており、両氏の矛先はFTAの交渉入りに消極姿勢を示す日本や韓国の政府に向けられている。日中間のこうした隔たりを埋めるために環境分野の協力は非常に重要である。 環境分野における日中協力の成果を内外に示すことによって、東アジアの経済連携推進にはずみをつける。日本の進んだ環境・省エネに関する技術や製品の普及は当該国の環境問題の解決やエネルギーや各種資源の節約につながるだけでなく、地球温暖化や国境を越えたリサイクルなど地域、世界規模の環境・エネルギー問題の解決に向けて日本の政府や企業にとってさらに大きな活動空間が広がるはずである。東アジア地域あるいは日中間ですでに先行している環境分野を含めたEPA戦略を1日も早く打ち出すことを日本政府には期待したい。 平和国家・日本が示すEPA、とくに政治体制、経済システムにおいて多様性に富んだ東アジアにおいて、普遍妥当性を本来持っている民主主義や基本的人権を大上段に振りかざすだけでは各国政府や市民の共感は得られないだろう。政治にかかわる価値に対して、環境は今を生きる東アジアの政府や人々にとってはもちろんのこと、世界共通の問題であり、人々の希求するテーマであり、価値であることから、東アジアで幅広い共感が得られることは間違いない。そればかりか、環境で東アジアにおいて役割を発揮することはそのほかの地域や国からも支持を得ることは疑いない。 |
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※ 本稿は執筆者個人の見解であり、所属機関の公式見解を示すものでない。 |
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| *1 | デイビット・J.・アーノルド、ジョン・A.・クェルチ「新興市場における新しい戦略」、A.K.グプタ、D.E.ウエストニー編著『スマート・グローバリゼーション』諸上茂登監訳、同文舘出版、2005年3月8日、73-100頁 | |||||||
| *2 | 長春市商務局『長春市招商引資 特待政策の集成(集訂版)』2006年5月。同書の26頁には、ハイテクの外資の場合、輸出額が製品販売額の70%以上なら企業所得税が10%にまで減免されるという吉林省の外資優遇策が掲載されているが、こうした措置は早晩見直されることとなる。 | |||||||
| *3 | 商务部制定《商务发展第十一个五年规划纲要》 http://www.mofcom.gov.cn/aarticle/a/200610/20061003379778.html |
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| *4 | 利用外资“十一五”规划 http://www.ndrc.gov.cn/zjgx/W020061109412044823714.doc 邦訳については、日本国際貿易促進協会『国際貿易』第1742号、2006年12月5日、2-4面を参照。 |
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| *5 | 拙稿「中国経済をめぐる動きと中国環境問題」化学経済、2004年11月号、46-47頁。 | |||||||
| *6 | 例えば、国家発展改革委員会など7省庁によって2005年12月9日に公表された通知(発改経貿[2005]2595号)など。加工貿易については、商務部などが2006年11月3日に公表した「加工貿易禁止類商品目録」など。 | |||||||
| *7 | グリーンGDPについては、「中国緑色国民経済核算研究報告2004」 http://www.sepa.gov.cn/plan/gongwen/200609/P020060908545859361774.pdf を参照。 |
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| *8 | 国务院关于发布实施《促进产业结构调整暂行规定》的决定 http://www.ndrc.gov.cn/zcfb/zcfbqt/zcfb2005/t20051222_54302.htm 目録については以下を参照。 http://www.ndrc.gov.cn/zcfb/zcfbl/zcfbl2005/t20051222_54304.htm |
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| *9 | http://www.ndrc.gov.cn/hjbh/hjjsjyxsh/t20060803_79058.htm を参照。 | |||||||
| *10 | 2006年上半年全国单位GDP能耗公报 http://www.ndrc.gov.cn/hjbh/hjjsjyxsh/t20060803_79058.htm |
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| *11 | 国务院关于加强节能工作的决定(国发〔2006〕28号〕 http://hzs.ndrc.gov.cn/jnxd/t20060823_93764.htm |
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| *12 | 講演テキストは以下。 http://www.sdpc.gov.cn/hjbh/hjjsjyxsh/t20060731_78429.htm |
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| *13 | http://www.ndrc.gov.cn/fzgh/zcfg/t20061107_92225.htm を参照。 | |||||||
| *14 | 环保总局确定主要污染物削减目标考核原则 http://www.zhb.gov.cn/xcjy/zwhb/200607/t20060720_91675.htm |
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| *15 | 关于印发《二氧化硫总量分配指导意见》的通知 http://www.zhb.gov.cn/info/gw/huangfa/200611/t20061113_95964.htm |
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| *16 | 关于做好主要污染物总量削减目标落实情况检查工作安排的通知 http://www.zhb.gov.cn/info/gw/bgth/200612/t20061231_99219.htm 关于不得自行公布主要污染物排放总量和削减情况的通知 http://www.zhb.gov.cn/info/gw/huangfa/200701/t20070124_100181.htm |
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| *17 | http://www.ndrc.gov.cn/hjbh/hjjsjyxsh/t20061109_92613.htm を参照。 | |||||||
| *18 | 日本経済団体連合会『これからの企業戦略』2004年5月18日、22-24頁。 | |||||||
| *19 | 『日本経済新聞』2007年1月29日、東京版第13版、第6面、「汚染物質 中国、排出が拡大」 | |||||||
| *20 | 「贯彻落实国务院决定精神 扎实推进千家企业节能行动——国家发展改革委召开全国千家企业节能工作会议 http://www.ndrc.gov.cn/hjbh/hjjsjyxsh/t20061106_91716.htm |
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| *21 | 国家发展改革委组团考察日本节能法实施情况 http://www.ndrc.gov.cn/hjbh/hjjsjyxsh/t20061110_92815.htm |
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| *22 | 国家发展改革委资源节约和环境保护司郑重声明 http://www.sdpc.gov.cn/tztg/t20061122_94730.htm |
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| *23 | 「日中省エネルギー・環境総合フォーラム、東京で開催」、『日中経協ジャーナル』No.151、日中経済協会、2006年8月号、4-25頁。日中経済協会『日中省エネルギー・環境総合フォーラム開催報告』2006年8月。 | |||||||
| *24 | 「第7回日韓中首脳会議共同プレス声明」2006年1月14日 | |||||||
| *25 | 阿部一和、片岡光彦「日韓中FTA 恩恵世界に」、『日本経済新聞』経済教室、2007年1月26日、東京版第12版、第27面 | |||||||
| ※ 参考にした中国のウエブサイトの資料へのアクセスは2007年1月30日 | ||||||||
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