友人スチーブン・ハーナーの勧めで、この本をアマゾンに注文。234ページのハードカバー本が確か2000円ちょっとで買える。もし翻訳ならば、定価はこの2倍程度のはず。英語と日本語では、印刷部数は異なるから一概にはいえないが、日本の物価高は明らか。
ウォルターは80年代に北京大学で中国語を学び、その後、中国の国有企業(央企)を化粧直ししてニューヨーク証券取引所に上場する際の、いわゆる「幹事証券」の役割を果たす投資銀行(あるいは証券会社)で働いてきた人物である。このような金融・証券界のウラを知る人物の書いた本だから、面白くないはずはない。本書6章の表6-6を眺めて見よう。ここには代表的な「央企」の上場の面倒を見た「Lead Underwriter(s)」(幹事証券)の名が担当企業ごとに明記されている。ウォルターの所属先は明らかにされていないが、この種の業務を担当したことから判断して、彼はゴールドマンサックスやモーガンスタンレー、あるいはその子会社に勤務しているものと私は推定している。金融・証券ギョウカイはとりわけ、外部から見えにくい世界であり、私はかねてこの分野の真実を知りたかったが、本書は私の好奇心をかなり満たしてくれた。しかも2000数百円だから、コストは小さい。
TABLE 6.6 The National Team: Overseas IPOs, 1997-2006 |
中国代表企業の海外上場1997-2006 |
公司 |
業種 |
幹事証券 |
上場日順 |
規模IPO Size |
Company |
Industry |
Lead Underwriter(s) |
IPO Date |
(US$billion) |
1中国移動 |
通信1/ 移動* |
Goldman Sachs |
1997年10月23日 |
4.5 |
China Mobile |
2中国石化 |
石油ガス1 |
Goldman Sachs |
2000年7月7日 |
2.9 |
PetroChina |
3中国聯通 |
通信2/ 移動* |
Morgan Stanley |
2000年6月22日 |
5.1 |
China Unicom |
4中国石化 |
石油ガス2* |
Morgan Stanley |
2000年10月19日 |
3.3 |
Sinopec |
5海洋石油 |
石油ガス3* |
Merrill Lynch/CSFB |
2001年2月28日 |
1.4 |
China National Offshore Oil |
6中国鋁 |
鉱業精錬 |
Morgan Stanley |
2001年12月12日 |
0.5 |
Aluminum Corporation of China (Chalco) |
7中国電信 |
通信3/固定線* |
Merrill Lynch/ Morgan Stanley |
2002年11月8日 |
1.4 |
China Telecom |
8中国人寿 |
保険1 |
Citi/CSFB/Deutsche Bank |
2003年12月18日 |
3.4 |
China Life Insurance |
9平安保険
Pin An Insurance |
保険2 |
Goldman Sachs/ HSBE/ |
2004年6月24日 |
1.8 |
10国際航空 |
航空* |
Merrill Lynch |
2005年6月15日 |
1.2 |
Air China |
11中国神華 |
エネルギーと電力* |
Deutsche Bank/ Merrill Lynch |
2005年6月15日 |
3.3 |
China Shenhua Energy |
12交通銀行 |
銀行1 |
Goldman Sachs/ HSBE |
2005年6月23日 |
2.2 |
Bank of Communications |
13建設銀行 |
銀行2 |
CSFB/Morgan Stanley |
2005年10月27日 |
9.2 |
China Construction Bank |
14中国銀行 |
銀行3 |
Goldman Sachs/UBS |
2006年6月1日 |
11.1 |
Bank of China |
15工商銀行
ICBC |
銀行4 |
Merrill Lynch/ CSFB/Deutsche Bank |
2006年10月21日 |
21.9 |
資金調達計 |
|
|
|
73.2 |
Total Capital Raised |
Source: Wind Information |
Nοte:*denotes company parent Chairman is on the central nomenklatura list of the Organization Department of the Communist Party of China |
本書からもう一つのグラフ8-2図を紹介したい。これは欧米の公的債務の大きさがGDPの7~8割に相当することを示す、有名なグラフである。日本の債務はGDPの約200%でその借金漬けはかなり有名だが、これに対して中国の公表統計では、図8-2に示されたように、4割弱であり、国際的にはかなり健全だというのが公表統計である。
しかしながら、著者たちの実証研究によれば、ここで想定されている債務は債務の一部にすぎない。隠された地方政府レベルの債務と、不良債権の規模を合わせて示すと、次のような表が描ける。すなわち表8-1の通りである。この表によると、公表されている中央政府債務34%のほかに、地方政府の債務28.1%および推計不良債権15.3%を加えて、公的債務は「GDPの77.3%程度」と見るのが妥当だという結論が得られる。つまり、中国の債務は、日本と比べればはるかに少ないが,欧米とほぼ同じと著者たちは見ているわけだ。
中国の公的債務 |
項目 |
|
2009年実績 |
GDP比 |
2011年予想 |
GDP比 |
GDP |
|
33兆5353億元 |
100 |
42兆0667億元 |
100 |
一 |
中央政府の債務 |
|
|
|
|
1 |
中央政府 |
6,471 |
19.3 |
6,471 |
15.4 |
2 |
財政部受取り、工商銀、農業銀行 |
807 |
2.4 |
807 |
1.9 |
3 |
財政部1998-2007特別国債 |
1,820 |
5.4 |
1,820 |
4.3 |
4 |
中国開発銀行債券 |
3,200 |
9.5 |
3,200 |
7.6 |
5 |
農業銀行債券 |
438 |
1.3 |
438 |
1 |
6 |
輸出入銀債券 |
810 |
2.4 |
810 |
1.9 |
7 |
鉄道部債券 |
396 |
1.2 |
396 |
0.9 |
8 |
4大銀行裏書債務 |
345 |
1 |
345 |
0.8 |
|
中央政府・小計 |
14兆2890億元 |
42.6 |
14兆2890億元 |
34 |
二 |
地方政府債務 |
|
|
|
|
1 |
current o/s local debt |
7,800 |
23.3 |
|
|
2 |
4兆元による新債務(見込み) |
|
|
11,800 |
28.1 |
|
地方政府債務・小計 |
7兆8000億元 |
23.3 |
11兆8000億元 |
28.1 |
三 |
不良債権 |
|
|
|
|
1 |
資産管理公司残高 |
2,730 |
8.1 |
2,730 |
6.5 |
2 |
不良債権率20%の場合 |
0 |
0 |
3,200 |
7.6 |
3 |
現存の不良債権 |
504 |
1.5 |
504 |
1.2 |
不良債権・小計 |
3兆2340億元 |
9.6 |
6兆4340億元 |
15.3 |
債務のGDP比 |
|
75.5 |
|
77.3 |
出所、Wind Information |
最後にも一つ。上海の証券取引所の時価総額が東京をいつ超えるか、が話題になっている。中国経済の活力からして、東京を追い抜くのは時間の問題であることは明らかだ。ただし、中国のいわゆる「時価」には、一つのウラがある。それは中国の国有企業の場合、発行株式のすべてが流通しているわけではないことである。むろん日本にもそのような、株式の一部を国有としている企業がないわけではない。ただし、中国の巨大国有企業の場合、市場で流通し売買できるのは、総発行株数中3~4割にすぎない。これら流通部分について形成された、いわば「部分時価」をもって、これを総株数に乗じて、時価を計算するのは無理が伴うが、流通部分の比率を明示した資料は少ない。そのような点も見落とさないのが本書の価値であろう。
FIGURE 2.4 Comparative share floatation of listed banks, FY2008
銀行名 |
発行株中、市場で売買される株の比率 % |
工商銀行ICBC |
29.3 |
建設銀行CCB |
34 |
モルガンJPM |
100 |
中国銀行BOC |
24.5 |
交通銀行BoComm |
41.8 |
チャイナモバイルCMB |
10.1 |
Citic |
32.5 |
この本の結論は、第1章のむすび「CHINA IS A FAMILY BUSINESS」に要約される。その要約の核心の一語は、「強欲資本主義」である。Greed is the driving force behind the protectionist walls of the “state-owned” economy “inside the system” and money is the language. この「強欲Greed」は、リーマンブラザーズが破産したとき、アメリカ資本主義について語られたキーワードだが、この文脈ではまったく同じだ。違いは、ただ一つ、それが中国流のもので、中国チームによって導かれる点だ。これは中国版ノーメンクラツーラの話なので、別稿で書きたい。 |