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     第135号 2022.02.03発行 by 岡田 充
    戦争シナリオを放置していいのか
日米が台湾有事で共同作戦計画
 台湾有事を念頭に、日米共同「戦争シナリオ」が出来つつある。(写真 グアムで島嶼防衛のため米軍と共に合同演習する自衛隊=2012年10月13日)日米両政府は1月7日の外務・防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(「2プラス2」)で、台湾有事の初期段階に米海兵隊が自衛隊とともに南西諸島を「機動基地」として使い、中国艦船の航行を阻止する「共同作戦計画」推進にゴーサインを出し、日米首脳会談(同21日)もこれを追認した。菅義偉前首相とバイデン大統領が、昨年4月の日米首脳会談で「台湾有事」に向けて日米安保を「地域の安定装置」から「対中同盟」に性格変更してからわずか1年足らず。憲法違反の疑いが濃厚な共同作戦計画という「戦争シナリオ」が、野党の反対や議論もなく独り歩きする日本の現状は、戦争に近づく危険に満ちている。
対中タカ派の素顔
 「共同作戦計画」といっても、あまり聞き覚えはないと思う。それもそのはず、「2プラス2」を受け、「沖縄タイムス」「琉球新報」の沖縄2紙を除けば、全国紙の大半は「日米連携、踏み込んだ形」「日米、同盟強化で中国牽制」(「朝日」1月8日朝刊)などと書くだけで、共同作戦計画の詳細には触れていないからだ。
 しかし「計画」を放置すれば、戦争放棄をうたった憲法に沿う「専守防衛」政策が、根底から揺らぐ恐れがある。「スルー」するわけにはいかない。1月7日の「2プラス2」からの展開を振り返り、何が問題なのか精査したい。
 岸田の外交姿勢については、昨年11月の第2次内閣発足以来、安倍晋三元首相ら自民党右派が集中攻撃を浴びせてきた。まず、安倍の反対を押し切って、外相に林芳正氏を据えたこと。バイデン政権が開いた「民主主義サミット」
注1 や北京5輪への「外交的ボイコット」への対応は、のらりくらりとし安倍との「溝」がささやかれた。
 しかし年が改まり「2プラス2」が開催されると、「対中同盟」に変質した日米同盟で中国を軍事抑止しようとする安倍・菅路線を継承・加速する姿勢を鮮明にした。首脳会談では、「核廃絶」に関する日米共同声明を敢えて発表し「ハト派色」を見せようとした。しかしそんなイメージ作戦の陰から対中タカ派の「素顔」がくっきりと表れたのである。
半分は中国問題論議
 バイデンとの首脳会談は、岸田が訪米による実現を強く希望していた。しかしバイデンが、コロナ対策予算をめぐって民主党上院議員の造反に遭い、7%ものインフレ高進など内政処理に忙殺されて実現せず、結局オンライン会談になった。まず会談内容を振り返る。
 1時間20分の会談の新たな合意点は①「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日米豪印(クアッド)首脳会合を今年(2022年)春までに開きバイデンも出席、②経済安全保障について緊密な連携を確認、閣僚レベルの日米経済政策協議委員会(経済版「2プラス2」)を設立―の2点だった。
 首相側近によると、会談の半分は中国政策に費やされた。そこで、対中政策で何が合意されたのかをまとめる。外務省の発表によると、両首脳は①東シナ海や南シナ海における一方的な現状変更の試みや経済的威圧に反対、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す、③香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有―で一致した。
軍事力と同盟の強化が柱
 この3点は、2021年4月の菅、バイデン首脳会談の合意内容を「上書き」したもので、新味はない。政権が変わっても外交政策は継承するのが、国家間の基本的取り決めである以上、岸田が日米同盟と対中政策で安倍路線を「継承」するのは当然と言える。継承しなければ大ニュースになる。
 問題は「継承」だけでなく、それをどう発展させたかであろう。そこで、安倍路線をどう「加速」したかをみよう。
 「2プラス2」(写真=外務省HP)終了後に発表された日米共同発表は
日米「2+2」の共同発表を支持。日米同盟の抑止力・対処力の一層強化で一致。岸田首相から、新たに国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を策定し、日本の防衛力を抜本的に強化する決意を表明し、バイデン氏も支持
日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む、揺るぎない対日防衛コミットメント及び拡大抑止について力強い発言
 これらの方針もまた、第1次内閣以来、岸田が繰り返し強調してきた軍事力強化による中国抑止政策であり、意外性は全くない。
計画内容に口ごもる外務・防衛相
 このうち「『2プラス2』の共同発表の支持」という表現こそ、日米の制服が策定してきた「共同作戦計画」のゴーサインを意味する。共同発表は、計画には直接触れず、代わって「同盟の役割・任務・能力の進化及び緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎注2 という表現を使っている。日米専門家は「共同計画作業」の具体案が共同作戦計画だとみる。
 林外相と岸信夫防衛相は終了後の記者会見で、「共同計画作業」が何を指すのかとの質問に対し「相手がある事なので」「答えられない」と口ごもり、明らかにしなかった。
 計画策定のスタートは、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を52年ぶりに文書に盛り込んだ昨年3月の日米「2プラス2」と、菅・バイデン首脳会談まで遡る。岸防衛相はオースチン米国防相との協議で「(台湾)有事で日米の緊密連携」を確認し、「台湾支援の米軍に自衛隊がどう協力するか検討する」と約束した。これを機に、制服レベルで計画策定が始まるのである。
基地自由使用と後方支援が必須
 日米関係に詳しい米国際政治学者、マイク・モチズキ・ジョージ・ワシントン大準教授は昨年5月、著者も参加した「台湾有事」に関するオンライン国際会議(非公開)で、台湾有事に際し、米軍が自衛隊にどのような役割を演じるよう期待しているかを明らかにした。
 彼は、「米国は中国との戦争を望んではいないが、戦争準備が必要という認識で議会は一致している」と米議会の現状を報告。彼を含むワシントンの国際政治と軍事専門家が行った「机上演習」(ウォーゲーム)の結果、台湾有事では、①米軍による在日米軍の自由アクセス②自衛隊の後方支援―がなければ「米軍は中国軍に勝てない」との結論が出たとした。そして、この2条件を盛り込んだ対日要求シナリオの一つとして、「南西諸島での中国艦船の通過阻止とミサイル配備」を挙げたのである。
 彼が挙げた対日要求シナリオ注3 は次の6点だった。
(1) 在日米軍基地への自由なアクセスと自由使用
(2) 日本領土内での積極的後方支援(物資・燃料補給、日本の民間施設へのアクセス)
(3) 在日米軍基地の強化。兵器の迅速な修理と機動能力向上を通じ「米国の接近阻止戦略・戦術」の支援
(4) 南西諸島での中国艦船の通過阻止とミサイル配備、台湾島嶼部の防衛と情報収集・警戒監視・偵察活動など、自衛隊の防衛力強化
(5) 米軍事戦略・戦術を直接的に支援する自衛隊の活動(対潜戦、軍用機支援、機雷掃海、台湾付近での水陸両用揚陸の支援)
(6) 日本版の「台湾関係法」の制定と台湾防衛に対する米国支援の明示的関与。
「米軍基地の自由使用」は事前協議?
 こうしてみると(1)から(3)までは、比較的「控えめな」要求のように見える。(6)の「日本版台湾関係法」は、安倍ら自民党右派議員が国会提出を目指している。ただ「台湾有事」に伴う要求というより、平時に成立させるべきシナリオだと思う。
 「自由アクセス」の法的根拠はどこにあるのか。1960年に改訂された日米安保条約第6条の「事前協議」がその根拠。米軍の軍用機や艦船が「戦闘行動」に直接参加するため在日米軍基地を使う場合、日本の「事前同意」が必要と規定する。具体的には①基地使用②核兵器の配備③1個師団(海軍では1機動部隊)の日本への「配置」「配備」―。ここで重要な点は、事前協議の「発議権」は米国にあり日本にはない。平等ではないのだ。
 沖縄や横須賀の米軍基地への「核持ち込み」疑惑は、何度も指摘されてきたが、米国が事前協議を発議したという話を聞いたことがない。「自由アクセス」は1960年以来ずっと事前協議なしに「認められてきた」のであり、「台湾有事」でも協議などしないはずだ。
南西諸島40島が軍事拠点
 一方、共同通信は2021年12月23日配信の記事注4 で「共同作戦計画」(写真=計画を報じる沖縄タイムス紙)原案の内容をスクープした、概要を紹介すると、
中国軍と台湾軍の間で戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と、日本政府が認定した場合
台湾有事の初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置く
軍事拠点候補は、陸自ミサイル部隊がある奄美大島、宮古島や配備予定の石垣島を含む約40の有人島
対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を拠点に配置。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給など後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇の排除に当たる。事実上の海上封鎖になる。
 モチズキのシナリオ④と重なることが分かると思う。日米間ではこのシナリオを検証するための演習が、何回か行われていることも付け加えておく。共同作戦計画は「原案」とされ、今後さらに細部の詰めや修正を経るとみられるが、基本的方向に変化はないだろう。
また沖縄を犠牲にするのか
 シナリオ通りに作戦が展開されれば、これら移動拠点が中国側のミサイル攻撃のターゲットになり、住民が戦闘に巻き込まれるのは避けられない。計画は純然たる「戦争シナリオ」なのだ。そして本土防衛のための戦争がまた、沖縄を含む南西諸島を舞台に展開される恐れがあるのは明白だ。
 1月末、ミサイル配備が予定されている石垣島の平和団体「普通に暮らしたいズ」の求めで、「台湾海峡危機」についてオンラインで話す機会があり、①台湾有事は、日本の軍事力強化とミサイル配備を加速するための、作られた脅威②「戦争シナリオ」が発動されれば、石垣島を含め中国側の攻撃の標的になる恐れがある③中国の最重要課題は体制維持にあり、体制を揺るがす恐れのある台湾侵攻の可能性は極めて低いーの3点を説明した。
 説明を聞いたあるメンバーは「恐ろしい事実!でも、安心したような、腹が立つような不思議な感覚」と、率直な感想を伝えてくれた。
「戦争シナリオ」は外交敗北
 制服組が「最悪のシナリオを想定して作戦を練るのは当然」という見方がある。一理あるにせよ、戦闘状態を前提にした戦争シナリオの「起動」は、「外交敗北」を意味する。戦争に発展する前に、対話と相互理解を重ね、戦争を回避するのが外交の役割だからである。
 中国は台湾統一を「歴史的任務」に設定しているが、統一を急いでいない。少子高齢化の加速で成長に陰りが見える現在、プライオリティは「体制維持」にあり、台湾武力統一はそれを危険にさらす恐れがある。日米が台湾有事を煽る狙いを繰り返せば、①台湾問題で「脇役」だった日本を米軍と一体化させ「主役」にする②南西諸島のミサイル要塞化を加速し、米軍の中距離ミサイル配備の地ならし③中国が容認できない一線を意味する「レッドライン」を引き出す―にある。
 ことしは日中国交正常化50年の節目だ。
 「聞く耳を持つ」を信条にする岸田氏は、「ハト派」らしい温厚な印象を周りに与える。しかし日米首脳会談と「2プラス2」の結論を見ると、台湾有事を最優先課題に、日米同盟を中国包囲装置にした安倍路線に「前のめり」の姿勢を鮮明にした。
 台頭する中国を叩くため米国が仕掛けた米中戦略対立は、バイデンが「民主vs専制」と位置付けたことによって、決着がつかない迷路に入っている。フランスを代表する歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏注5 は、バイデン政権は豪州への原子力潜水艦契約や北京冬季五輪の外交ボイコットを通し「中国との経済的な対立を軍事や外交の領域まで広げている。現在の世界に不確実性を作り出しているのは中国ではなく、米国のほうだ」とみる。
 その上で、米中対立構造から「世界が再構成されること自体が脅威」として「新たな冷戦という幻想に巻き込まれてはいけない」と主張する。岸田は米国の「優等生」として、米中対立構造から「世界を再構成」する迷路に差し掛かっている。
(了) 
 
注1 岡田充「分断と対立煽る冷戦思考の舞台 「帝国の落日」際立たせた民主サミット」(海峡両岸論第133号2021.12.16)
http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_135.html)
注2 「2プラス2」日米共同発表(2022年1月7日 外務省HP)
https://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/2022/0107a_usa-j.html
注3 岡田充「中国軍艦の航行阻止、台湾島しょ部の防衛「自衛隊が支援」。米国際政治学者の衝撃シナリオ」(「ビジネスインサイダー」 2021年6月9日)
https://www.businessinsider.jp/post-236369
注4 共同通信「 南西諸島に攻撃拠点 米軍、台湾有事で展開 住民巻き添えの可能性 日米共同作戦の計画原案」(「沖縄タイムス」2021年12月24日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/884619
注5 「中国は超大国になれない」 エマニュエル・トッド氏(「日経」2022年1月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC14D8L0U2A110C2000000/
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