日本政府もまた、『広東客家民族の研究』(外務省情報部編、一九三二年一二月、東京、のち程志遠により中国語訳された。『客家源流与分布』香港天馬図書有限公司、一九九四年)を出版した。これは本文わずか二九ページにすぎない小冊子だが、実に手際のよい客家入門書になっている。元来は日本の広東総領事館から送られた調査報告書を東京の外務省情報部が活版印刷に付して、「執務参考資料」として配布したものである。
| 『広東客家民族の研究』(外務省情報部編、一九三二年一二月、東京) |
| 執筆担当者の付した原題は『客家民族今昔概況』である。 |
| 目次 |
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| 緒論 |
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| 第1章 |
広東客家民族の由来、第1節上古における広東、第2節中古における客家、第3節近世における客家 |
| 第2章 |
民国後における客家及びその人口、第1節民国後における客家、第2節客家の人口及び分布状態 |
| 第3章 |
客家の特徴、第1節客家の言語、第2節客家の性質、第3節客家の風俗 |
| 第4章 |
客家の生活状態、第1節農・工・商、第2節客家の出稼人 |
| 第5章 |
客家の各方面における地位及び勢力、第1節社会上における地位、第2節軍・政・財界における勢力 |
| 第6章 |
客家の人物略伝 |
| 第7章 |
結論 |
この報告書には、筆者名は明記されていないが、スチーブンスンと面識のあること、Deniker, Huntington, 章太炎著『嶺外三州語』、古直(中山大学教授、梅県出身)著『客人対』、羅靄著『客家方言十巻』、黄公度著『客族考源』、陳達著The
Chinese Migrationなどの引用文献から判断して、かなりの学識をもつ研究者と推測される。
短い結論の章から一句を引用すると、この報告書の問題意識を読み取ることができる。曰く「客家の政界・軍界・財界における現有勢力は、牢固として抜くべからざるものあり、ことに上海における抗日戦において、天下に驍名(ぎょうめい)を馳せたる十九路軍は、最近福建に移動を了したるをもって、同地方において異民族視されている「福佬(ふくろう)」と結合し、いわゆる「客・福連合運動」を実現する可能性一層濃厚となり、さらに張発奎(ちょう・はつけい)[一八七六~一九八〇年、広東省始興人、国民党の将軍。第三路軍総司令、第二方面軍総司令、陸軍総司令などを歴任]その他において江西省南部の客家を率い、客家の大連合を試みるにおいては、中国の政局を把握すること、さして困難にあらずと思われる」。「客家の先天的、後天的の堅忍不抜、自主独立の精神は、多年圧迫せられ鬱積せる感情と相まって、強固なる民族的自覚を誘致せしめ自ら別個の団結を形成せんとするものにして、その精神的連結はすこぶる深刻なものあり、したがって前記のごとき大客家主義の実現は理論上さして困難ではないであろう」(二八~二九ページ)。
ここには満洲事変以後の第一次上海事変を通じて、抗日の雰囲気が一段とまとまりつつある状況が実に的確にとらえられているように思われる。この流れの行き着くところ、国共合作であり、抗日民族統一戦線の結成である。
こうして中国内外の客家研究もまた不幸な日中関係のなかで、一方は愛国ナショナリズムの覚醒を強く意識して、他方は「抗戦勢力の分析」を主たる目的として進められたのであった。そのような政治状況は学術研究にとっては、よい条件とはいえない。
冷戦体制が崩壊する過程で、八〇~九〇年代に客家研究が復活したことは、真に学問的な研究を客観的に進めうる状況がようやく成熟したことを意味すると私は解している。
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